公開日: 最終更新日:2020/01/13

ITRI訪問レポート

2016年以来付き合いのある台湾のITRI(Industrial Technology Research Institute)財団法人工業技術院を初訪問

図1

 

ITRIの光通信デモルームで見たものは

ITRIの光無線通信が最も重要視する速度風の強い新竹で3年ぶりの再会となる劉マネージャー(Yen-Ling Liu)が、自ら玄関まで出迎えてくれました。すぐに光通信のデモルームに案内され、まず、解説されたのはスポットライトとLED照明による光無線通信でした。電波通信であれば壁の外にでも情報が伝わってしまいますが、光通信なら光が遮断されると伝わらない特性があります。光の性質を応用してセキュリティを担保し、高いセキュリティが必要とされる通信での利用を想定しています。

ダウンリンクでは、スループットの低い用途にはLED(発光ダイオード)、スループットの高い用途にはLD(レーザーダイオード)と2種類の光源を用意しており、アップリンクではIrLED(赤外線LED)を使用しています。スループットはPhysical rateでLEDが113Mbps、LDが1,027Mbpsと表示されていました。日本の可視光通信メーカーの製品とは異なり、目の安全(eye safety)よりも通信速度が重視されているように思えました。その理由は、後のミーティングで判明します。

写真1

続いて説明していただいたのは、光IDでの位置検索の利用用途についてでした。天井にID付きのLED照明を配置し、人や機材にIDを受信するCMOSイメージセンサー付きの装置(写真)をつけることによって管理する実用例を紹介してもらいました。場所を移動すると、PCモニターの黄色がピンクに変わり人や機材が移動したことがわかる仕組みです(写真)。これは光に直進性があり、その場を離れると受信ができなくなる性質を応用したものでBluetoothでのbeacon(即ち電波)より精度が高いのが特徴です。電波が使えない環境に限らず、電波を使える環境でも利用可能な使い方で、機器間をBluetoothで情報交換(例えば機器の状況バッテリーの減り具合など)させる使い方などを付加させることも可能です。

写真2

(CMOSイメージセンサー付きの装置)

写真3

(人や機材が移動したことがわかるPCモニター)

続いては、パナソニックのLinkRayに似た製品が紹介されました。スマホのカメラを利用してクーポンを獲得するところまでは同じで、受信端末を工夫することで、そのクーポンが本人のものか選別できるところがLinkRayと異なります。

写真4

(クーポン発行システムのデモ)

日本では店頭でスマホのクーポンを店員に見せることで特典が得られますが、このサービスでは、端末にスマホをかざすとCMOSイメージセンサーでスマホ画面のクーポンを読み込むのと同時に、端末側のLEDモジュールが情報を発信してスマホのカメラ側が情報を受信。これにより、本人が獲得したクーポンかどうかを認識できるという仕組みです。

写真5

(端末写真)

これにより、店員に作業負荷をかけずに店頭対応がより正確で迅速になります。

 

情報通信研究所による水中での光通信とは

光無線通信の利点の一つに、水中での無線通信があります。日本では、手がけるメーカー少なく、未だに実用化の兆しは見えてきません。しかし、ITRIでは水中無線通信のプロジェクトを3年間以上継続して行っています。現在の開発段階について、説明をいただきました。そもそもプロジェクトの目的は、水中での光無線通信と画像センサーや温度センサーなどに代表される各種のセンサーデバイスとの利用用途を開発することです。直近の実験では、水族館でのライブ映像配信やダイバーの光無線通信による水中と外との会話、もしくはダイバー同士の会話を実現しています。

また、海洋の深さや水温などの計測や海中での環境調査の各種センサーと光無線通信の融合、さらに漁業に利用貢献できるシステム開発を目標としているとのこと。そして、それらのセンサーの給電を、水中で行うことも想定しているそうです。ただし、水中での無線給電はまだ光無線給電という発想には至っておらず、マイクロ波での無線給電を考えているのだそうです。こうしたシステムがメリットを生みだすかどうか、現在台湾北部の海での海洋養殖で実証実験しています。

水中におけるLEDの色の話も興味深いものがありました。港の中の比較的水面に近いところでの実験では、相性的には赤、緑、青の順で相性が良いそうです。水中での相性の良い色は青色だと思っていたのですが、それは深海に限られるそうです。

また、台湾南部では、海洋生物博物館で魚の餌づけのライブ映像の実験を行なったそうです。10mの海底にカメラを設置し、40Mbpsで光無線通信により水中の中継点まで映像データを送信、そこから海上までは、60Mbpsでケーブル通信(有線通信)による送信を行いました。海上にソーラーパネルを設置しこれらの機器に給電することで、1ヶ月間の海中餌付けライブ映像配信を実施しました。

水中での光無線通信について、最終的には下図のような将来像を描いているそうで、ITRIは将来的には陸上のWiFi環境を水中でも光無線通信で実現したいと考えていることが分かりました。日本の東北大学や海洋研究開発機構(JAMSTEC)なども興味を持って、この実験の行方を見ているそうです。

図2

 

 

光無線通信の出口は如何に?

東京電力ホールディングス(株)が、海中設備点検ロボットに実装可能な水中光無線通信技術を求めており、ナインシグマ社が委託を受けて提案の募集を2019年3月まで行っていました。水深200m透明度1mの環境下で100mの距離を100Mbpsスピードで、さらに1m四方以下の大きさのロボットに実装したいという要求に対する提案の募集でした。ITRIもこれには大変興味を持っていたそうですが、光が遮断されると通信ができないデメリットをどう解決するかが課題でした。1m先しか見えない場所で100mの距離を100Mbpsのスピードで通信するには、現時点での光通信の技術ではなかなか難しいものがあります。おそらく、この条件下で希望のスペックを満たす通信を可能にするには、水中での無線通信が可能な音波や電磁波との組み合わせに加え、可能な部分は有線との組み合わせをするしか手立てがないはずです。

これらを含めて今ITRIは、陸上での利用用途もさることながら水中に対しての光無線通信に可能性を見出だそうとしているのです。しかしながら5Gの話題が頻繁に出てきている昨今、実際に通信用途として民間で競争となるファクターは、どうしてもスループット(スピード)となり、レーザーまで視野に入れた通信手段を検討せざるをえません。知らず知らずのうちに電波と競争できないと、土俵そのものに乗れなくなってきていると、ITRIの劉マネージャーは語ります。

 

光無線通信を無きものにしたくない

現在、海外の光無線通信メーカーが、日本にも売り込みに来ています。海外のメーカーですら、キラーアプリの出口が見えない状況の中、日本にも進出してきているのです。日本のメーカーも、製品は作ったもののキラーアプリの出口が見えないために普及に非常に苦労しており、事業的にも苦しい状況が続いています。ITRIからは、ITRIが手がける水中での光無線通信が日本企業に売れる方法がないかという質問がありましたから、ITRIも出口で悩んでいるように思えました。ITRIでは台湾の軍事関連にも提案しているそうです。その中での課題は、水中であればスループットも重要なファクターですがそれより重要なのは距離で、潜水艦同士、潜水艦と地上などを想定すると500m、1Kmといった距離に対する要求が当たり前なのだそうです。

また、台湾に限ったことではありませんが、実績に乏しい点も採用につながらない一因となっていて、ニワトリとたまご状態になっています。「どこも使わないからいち早く使う」という発想にならないものか?と、カシケンはいつも思うのです。

軍事関連はハードルが高く、まずは支障のない観光関連の付加サービス(ヘルプ)などで実績を積みたいと、劉マネージャーは語りました。さらに、このまま研究開発していてよいのだろうかと、不安も口にされました。「継続しないとそこで終わりになってしまいますよ」とエールを送りましたが、開発者としての苦悩の一端を感じ取ることになりました。

電波での無線通信が不可能なところで無線通信を行いたい、その用途はあるのです。ぜひともこの光無線通信が成功することを期待して、ITRIを後にしました。

写真6

左から加賀台湾:沈氏、ITRI:電子デバイス研究所 温マネージャー(陸上通信担当)、同 黄マネージャー(アプリケーション担当)、情報通信研究所 劉マネージャー(水中通信担当)、筆者、加賀台湾:尾中社長

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