児玉由美子氏個展に見る、可視光通信と芸術の親和性
2016年9月13日~16日、東京、神谷町にある中国文化センターにおいて、「LED・可視光通信によるライトアートショー『もりのひそひそばなし 2016』」が開催されました。環境造形作家である児玉由美子氏の個展です。初日の9月13日に、オープニングセレモニーとして、可視光通信の生みの親でもある慶応義塾大学名誉教授、中川正雄先生の講演があるというお誘いを受け、可視光通信とアートの競演を楽しみに会場に伺いました。冒頭のテープカットでは、前参議院議員の江田五月氏も参加され、華やかに個展の幕が開けました。
最先端科学技術と環境芸術との融合
児玉由美子氏は、長年、岡山県立大学准教授として景観論をテーマに講座を受け持たれていました。環境造形作家としても積極的に活動されており、1998年の長野オリンピックでは表彰式会場の光景観デザインモニュメントの制作を、2005年の愛知万博では中日新聞パビリオンにおける、LEDによる北斎赤富士制作を、そして2008年の北京オリンピックにおいては、可視光通信内蔵の美術モニュメントを発表しています。
今回の個展は、北京五輪で展示し、IOC主催のオリンピックファインアート展で入賞した、可視光通信を利用したライトアートショー「もりのひそひそばなし」を中心に、児玉氏の国事参加の記録を展示する内容でした。そのオープニングイベントにて、まず児玉氏より「LED. 情報通信が変える景観照明の世界」と題する講演がありました。
先端科学技術アーティストと称される通り、児玉氏はご自身の大学時代から、その時代における最先端の科学技術を、環境芸術・デザイン・教育に展開することをテーマに活動されています。オリンピックや万博など、国事の環境芸術に科学の最先端技術を取り入れるチャレンジを続けて発表されていますが、2008年の北京五輪への作品に向けて検討中に、中川先生が研究・発表されていた可視光通信と出逢い、着目されたと言います。
愛知万博において、省電力で長寿命の光を生みだすLEDを使った作品を制作していたことから、LEDの可能性には大きな期待を寄せられていたそうです。自ら中川先生の研究室に出向き、学びを深めながら、情報の載せることで表現できるモニュメントを作られました。それが、今回の個展のメインコンテンツである、LED・可視光通信によるライトアートショー『もりのひそひそばなし 2016』です。
中川正雄先生が可視光通信を解説
児玉氏を当時の慶應義塾大学中川研究室に迎えた、中川正雄先生(可視光通信協会理事・慶應義塾大学名誉教授)は、祝辞と共に、一般の方にわかりやすく可視光通信をレクチャーされました。
中川先生は、非常に早い点滅ができるLEDの特性に着目し、1/0のデータ送信ができること、つまり人の目に見える光=可視光での通信の可能性を追求していらっしゃいます。すでにカシケンでもレポートしている通り、中川先生の提唱により、国内外の様々なメーカーが、可視光通信の研究開発に取り組み、商品化を進めています。その中から代表的な事例を、個展ご参加の皆様にご紹介くださいました。
- フォトダイオードを用いた一サービス
- 視覚障害者向けの音声ナビゲーションシステム
- 工場、病院、データセンターなどにおける、ロボットの危険箇所への進入禁止装置
- イメージセンサー(スマホのカメラ)を用いた、イメージセンサ通信サービス
- 灯台のLED化による可視光通信+AR技術
- 水中での可視光通信
- 反射光を読み取り情報を提供するシステム
- LEDの平面ディスプレイから光IDを読みとる方法
すでに技術的に活用され始めた可視光通信。2020年の東京五輪時には、無線ではフォローできない分野での通信網として、また指向性を活用した案内表示などで、当たり前に使われていることでしょう。
アートシーンにおける可視光通信の活用
児玉氏は、アートモニュメントを「LED照明の次の発展形」と紹介。ライトアップした光の中に、様々な情報が組み込まれて、多彩な表現を可能にすることを、作品として見せてくださいました。
たとえば、これはLEDが光る間だけお経が流れるモニュメント。実際にあるお寺で採用されています。手前にある黒いボックスが受光器で、間の光をさえぎるとお経は聞こえなくなります。
もう一つ、ギターの演奏をLED光源にデータ処理して載せ発光、その光を受け取った受光器側で、奏でた音楽を聴くことができるというデモンストレーションも見せてくださいました。可視光通信の指向性がわかりやすく表現されていると思います。
(ギターの演奏をLEDにつなぎ・・・)
(受光器でLED光を受けるとその周辺でギターの演奏が聴ける)
これらのモニュメントでは、光のみならず、外部の音にも反応してライトが点滅するよう、プログラミングされています。
可視光通信というと、見える光で発光器側と受光器側が何か情報をやり取りする、というイメージが先行しますが、光に情報を載せて発信することが環境芸術のような演出につながるのだという、新たな視点が生まれる楽しい個展でした。
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