公開日: 最終更新日:2018/10/15

一つ一つの光が意味をもつ時代へ パナソニックの『光ID技術』 ~パナソニック 光ID技術開発者インタビュー【Vol.1】

2017年、いよいよ可視光通信も本格的に実用の時を迎えています。そんな新年の幕開け、2017年のカシケンのスタートにふさわしいスペシャルトークをお伝えできることを嬉しく思います。

2014年12月11日、パナソニックが発表した「可視光通信技術を発展させ、LED光源から発信される情報を搭載したID信号(光ID)を、スマートフォン(スマホ)搭載のイメージセンサーと専用アプリを用いて高速受信する技術を独自に開発」のニュースは、カシケンでも記事にしました。

発表時より折に触れ、開発の経緯や今後の展望について伺うべくコンタクトを重ね、このたび、日本屈指の技術開発者で光ID技術の生みの親である大嶋光昭氏にお話を伺ってまいりました。(4回シリーズ)

パナソニック

パナソニック株式会社 AVCネットワークス社 イノベーションセンター スーパーバイザー 工学博士 京都大学特命教授 大嶋光昭様(左から2番目)同 主任技師 中西幸司様(右から2番目)同 マーケティング部 イノベーションマーケティング課 主務 前田真妃様(右)寿田龍人 カシケン運営・聞き手(左)

光IDとLinkRay

パナソニックの光ID技術の開発経緯についてお話を伺う前に、すでに実用化が進む光ID技術の概要についてふれておきましょう。光IDは、LEDの点滅に情報を載せてID信号として使うものです。LinkRayと名付けられた専用アプリ立ち上げると、読み取り用のカメラが作動します。スマホでアプリを起動しそのカメラを光にかざすと、クラウド上にあるIDにひもづけられた情報がスマホに表示されます。仕組みとしてはQRコードを想像させますが、QRコードのように近づいてピントを合わせるなどの手間無く、光が届けば0.3秒で受信ができるため、より利用者に便利な情報取得技術といえます。また「光が届けば」受信できるということは、離れた場所から複数の人が情報をキャッチできるということ。これも利点の一つです。
光ID

利用シーンについては後述しますが、今までカシケンで幾度となく「2020年に向けてこのような使い方ができそうです」と提案していた多くのシーンで、すでに実用化が始まっています。可視光通信技術の本格的な商品として注目されるパナソニックの光ID、その技術開発を主導された大嶋様に、まずは開発の経緯についてお話を伺いました。

光ID誕生はLEDではなく家電から

(聞き手)2010年頃にはLED照明が普及して来て、可視光通信の実用化が期待できそうだと考えたのですが、御社では家電の付加価値としてスマホ連携で何かできないか、というところから可視光通信の可能性を探り始められたと聞きました。照明からのアプローチではなく、家電からというところがとてもおもしろいな、と思いました。

(大嶋氏)家電メーカーですからね(笑)。可視光通信特有の「送信側照明」「受光器」という発想はありませんでした。スマホのカメラ機能を使って白物家電に付加価値をつけよう、スマート家電を推進しようという取り組みを、NFC注1対応のスマホでスタートしたのが始まりです。炊飯器、冷蔵庫、洗濯機、全ての家電をスマート家電化しようと開発を進める中で、家電営業本部から「エアコンはどうしましょう?」って言われたんですね。NFCですから近くでかざす必要があります。天井近くにあるエアコンに「世の奥様方がスマホをかざそうと椅子に登って、操作中に落下でもしたら…そんな危ないことをさせてはダメ」と、エアコンだけはNFC方式がボツになりました。

※注1:Near Field Communication=近距離無線通信規格

手ぶれ補正の研究が30年後に・・・

こうなると研究者マインドに火が点きまして、「さてどうしてくれよう」と。それで、よく見たらエアコンにLEDがついてるんですね。これを点滅させたらデータ送信ができるのではないかと仮説を立てました。ここで、実は当時のカメラ受信方式の技術を試したんです。やってみたところ、期待するスピードが出ない。IDをとるのに15秒くらいかかります。エアコンに向けてスマホを15秒もかざし続けるのは厳しい。なんとかスピードを出そうと、そこからカメラで可視光通信の速度を出すチャレンジをはじめました。

パナソニック大嶋氏

しばらく苦戦が続いてあきらめかけたんですが、熱血の新人研究者が「やらせてください」というので、彼も交えてディスカッションを喧々諤々やるうちに、ふと気付いたんです。今の方式はフレーム単位でスキャンするためスピードが出ないけれど、これをライン単位でスキャンしたらどうかという単純な発想。当時、1フレームにラインは1,000本くらいありましたからこのラインを使えば1000倍にできるんじゃないかと気付いたんです。

ご存知かもしれませんが、私は振動ジャイロの改良発明で、1983年に手ぶれ補正の基本特許をとりました。その時にビデオやカメラの構造やイメージセンサーについて徹底的に研究しましたから、走査線などの方式や構造についても非常に詳しくなったんです。その時の研究が30年後に効いてきて、パナソニックのカメラ方式や今回の光IDの発想につながりました。今まで蓄積してきた研究や技術がぱちっとかみ合ったんです。気付きをきっかけにカメラ方式での受信速度が1000倍になり、カメラ通信が現実のものになりました。(大嶋氏談)

 

日本でも指折りの発明家である大嶋氏から伺う開発秘話は非常に興味深く、ぐいぐいお話に引き込まれました。次回は、こうした経緯から生まれたパナソニックの光ID技術が製品化にこぎつけるまでのご苦労について伺います。

・「光ID」技術について、パナソニック株式会社は日本とその他の国において特許を保有しています。

・「LinkRay」および「LinkRay」アイコンは、パナソニック株式会社の商標です。

・その他、記載の会社名および製品名は、一般に各社の商標または登録商標です。

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