公開日: 最終更新日:2018/10/15

株式会社アウトスタンディングテクノロジー 可視光通信のパイオニアが世に放つ「照明無線LAN」

可視光通信のパイオニアとして、世界でも最高レベルの技術力が国内外から高い評価を受けている、株式会社アウトスタンディングテクノロジー(代表取締役:村山文孝 以下、OTC社)。無線の世界のタブー領域を次々とクリアし、可視光通信技術をいち早く市販品として世に送り出している企業でもある。2015年には、LED照明が照らす範囲で電波を使わずにインターネット接続を可能にする「照明無線LAN」が発表された。可視光通信技術の製品化に至るまでにはどのような紆余曲折があったのだろう。同社、営業・応用開発部 部長の、倉本篤氏に、開発の背景などについて話を聞いた。

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可視光LAN開発の経緯

「弊社は、代表の村山文孝が2007年に創業して以来、一貫して可視光通信の製品化に尽力してきました。実は、関西電力さんからのリクエストがきっかけだったんです。」 電力系の設備、特に変電所などは、電波が使えない環境である。電波が設備に干渉してしまう可能性があり、特に電磁妨害(EMI=Electro Magnetic Interference)による事故は甚大な損害につながるため、電波の使用は厳禁だ。 倉本氏は、 「現場では、メンテナンスなどの作業員が毎日場内に入って作業をします。その時に、たとえば故障内容とか、交換機器のマニュアルとか、セットアップリストとか、作業項目のチェックリストなど、いちいちあらかじめパソコンから紙でプリントアウトして作業場に持ち込むわけです。何か一つでも違っていたら、作業自体が止まってしまいます。それに現場に行って初めてわかることも多いですよね。突然、緊急性の高いメンテナンスが生じても、必要部署とネットワークでリアルタイムな情報を共有することができません。ネットワークがつながっていないことで、大変な不便があったわけです。 当時、毎日約6,000名の作業人員が稼働していました。現場とネットワークがつながる場所を一日に何度も往復することもあり、全体で考えると、膨大なロスタイムが発生します。日常的に無駄な動きをせざるを得ない環境で、電波を使わない無線LANの導入は悲願でした。2009年頃のことです。」 この非生産的な事態をどうにかできないのか、と社内的に大きな問題になっているところ、可視光通信の実用化に取り組むOTC社が注目された。 「そこで、天井にLED照明を設置し、電力線通信(PLC)を使って電気とイーサネットの情報を同時に送る、ネットワークソリューションを提案しました。EMIがなく通信もOKだということで、これは有効な技術であると、非常に高い評価を受けました。」

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小型化へのチャレンジ

それまで研究していた技術が、花開いた瞬間であった。しかし、手放しで喜べるものではなかったという。 「装置が非常に重くて大きかったんです。そもそもモバイルを期待されていましたから、通信BOXが大きすぎると。改善の余地もあるし、無線のみならず有線を嫌う設備にも入れたいという要望もいただき、もっと開発を進めていこう! というタイミングで、2011年3月11日の東日本大震災、そして福島原発の事故が起きてしまいました。」 すべての業務の見直しに入った関西電力では、OTC社への開発依頼もストップした。量産化への光が射した道がいきなり閉ざされて、資金面でも精神面でも大変だったのではないだろうか? 「ショックでしたが、とにかく今できることをやろう、使いにくさを改善して、今度は一般用途を目指そうと動き出しました。自分たち自身が使いたい、と思うものにしなければ始まらないと思いましたから、まずは大きな通信BOXをUSB接続のコンパクトなドングル的なものにしようと、エネルギーを注ぎました。」

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LEDからレンズを外す

「この問題をクリアするために、まずレンズを外し、指向性から離れようとしました。しかし、レンズを外すと反射のエネルギーや感度が下がりますから、伝送パワーも落ちてしまいます。通常利用されるシーンとして、天井から4m前後の距離でネットにつながることを目指し、いろいろな工夫をしました。」  開発陣は、どうすれば可視光の良さを失わずに、指向性と速度のハードルをクリアできるのか、日夜ディスカッションと挑戦を繰り返したという。そして、レンズを外してLEDをチップ状にし、受光機側にもさまざまな技術を施すことで、光源から4~5mで120度範囲の照らされた場所なら、受光器を正確に光源に向けなくても自然に受信できるようにした。 「こちらがその製品です。 一見すると白色LEDの照明ですが、これが照明無線LANの親機といわれる発光機です。照明口としてある天井のAC電源と、イーサネットのコネクタを繋げばそれでOKです。受光器側のドングルは、モバイル端末などUSBポートとドライバをインストールすれば繋がります。弊社の照明無線LANは、下りは可視光通信、上りは赤外線通信です。照明には4か所に赤外線の受信素子が、受光器には同様に赤外線LEDの発信素子を組み込んでいます。 照明無線LAN環境は、角度は120°、距離は約4m、一度に通信する推奨端末数は8台です。LED照明の明るさは1440ルーメン(lm)です。伝送速度は、物理層で24MHz/bpsを実現しています。 一番苦労したのはLEDチップです。ここで光信号に変調させるのですが、ここは苦労の塊でした。職人技を持つ社内の経験豊かな技術者の努力の結晶ですので、しくみは企業秘密ということにしてください(笑)。」 タブレットに装着されている最新の受光機を見ると、ほんの数年前まで受光機を背負って作業していたという姿が想像できないくらいの小ささである。OTC社に集積された、さまざまな分野の知恵と技術的なノウハウの結集により、照明無線LANとしての製品化に成功。これを展示会などで発表したところ、大変好評を得るところとなったのは、周知のとおりだ。

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セキュリティ対策にも効果を発揮?

営業も統括する倉本氏は、照明無線LANをアピールしていく中で、当初想定していなかったところでの可能性に気付いたと言う。 「情報漏えいのニュースが、連日放送されていた時期がありましたが、照明無線LANはセキュリティ上も有効ではないかという話になりました。漏えいがあってはならない情報の扱いに神経をとがらせているところには、『見える光で通信する』という特性が効果を発揮するのではと考えました。」 現在は、マイナンバーの導入も重なって、セキュリティ意識が非常に高まっている。通信を光で「見える化」して、悪事を抑制しようというのは、面白い発想だ。 「それから、会議中、参加者が一斉にWi-Fiを利用して資料がなかなかダウンロードできないといったことはないでしょうか? すでに無線LANが導入されている社内でも、照明無線LANをうまく併用すれば、ストレスが軽減するかもしれません。」

照明無線LANが活躍する4シーン

 ではここで、倉本氏に、照明無線LANがどのような場所でどのように活用できるか、整理してもらおう。 「照明無線LANが有効なシーンは4つあります。 第1に『電波が使えない』場所。 発電所など、電気関連の施設や、精密機械を扱う工場、病院などです。 2番目に『セキュリティ対策』が必要な場所。 機密性の高い情報へのアクセスに関しては、「目に見える光」で通信していることがわかるシステムを、どの企業も導入するべきだと思います。データセンターや顧客管理システムを請け負っている企業、製造業の開発部門などは特に必要でしょう。 3番目に『電波を使っているが困っていることがある』場所。 電波が混雑するスポットでの取り合い、帯域の枯渇といった問題に対応できるのは、照明無線LANだと考えています。社内LANだけでは用が足りないところで、電波を補完する役割を担えます。 4番目に『狭小空間』。トンネルや、工事現場の狭くて細長い空間、データセンターなどマシンがびっしりと並んでいるような空間は、電波は届きませんが、光はまっすぐ奥まで照らすことができます。電磁波を嫌う場所でも使えるので利便性は高いでしょう。」 OTC社では、こうしたシーンでの普及から始め、最終的には「家庭の照明で可視光通信ができるようにすること」をゴールに見据えている。家庭でも当たり前に利用されるようになれば、ひっ迫する電波帯域の枯渇問題の解決にもつながるであろう。 すでに発売を開始している照明無線LANには、可視光通信のパイオニアとして歩んできた歴史と、技術者たちの叡智が詰まっている。実際に製品を試してみたい、可視光通信をサンプリング的に研究で使ってみたい、そのような希望にも積極的に答えていくという。興味をお持ちの方は、ぜひカシケンまでご一報いただきたい。

照明無線LAN概要≫ 天井の照明と、PCにUSB接続した端末との間で通信を行う無線LANタイプ

・最大伝送レート:24Mbps(物理層理論値) ・通信距離:4~5m ・受信指向角:±60度 ・照明機能全光束:1440lm

お問い合わせ(カシケン)

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